「トランプと言えばあれね、スピードでは私の右に出る者はいないわよ」
「スピード! 懐かしいです!」
「すぴーど?」
「あまりに速くて周りから“ギアドライブ”と呼ばれ恐れられていたわ」
「ギアドライブ! かっけぇな!」
「つまりオートマだよ?」
「わ、私だってババ抜きでは負け知らずでした! 最後の一騎討ちで負けたことはありません!」
「すげぇな!」
「あまりに強くて周りから“モダニズムの聖人”と恐れられていました!」
「それは別件でしょ」
「はななっ」
「懐かしいね、それ」
「えとえと、そうだ、ミドリはトランプでは何が得意なんですか?」
「あ、いや、俺はトランプしたことないんだ」
「あっ……ごめんなさい」
「謝ることないわよ」
「そうそう、謝ることねぇよ。その代わり、一人で出来ることなら何でも出来るぞ」
「おー、例えば?」
「料理に手芸に絵だろ? 後、スケートにスキーにすごろくに」
「すごいです!」
「ちょっと待って。すごろく?」
「ああ、すごろく」
「一人でするの?」
「ああ、すごろくだからな。あれは根気が試されるゲームだ」
「はい?」
「最後辺りの終われるか終われないか! っていう所が痺れるんだよな。で、上がった時の達成感! これが堪らないよな! 試練に打ち勝ったみたいで!」
「は、はあ」
「一番嫌なマスが“一回休み”だよな。あそこに止まると、また明日に持ち越しかーってがくってくるんだよな。二回休みなんて中一日だからな、英気を養うにはある意味良いんだが」
「僕の知ってるすごろくではない……」
「あ、あはは……」
「……」
「マゼンダ?」
「ミドリ、サイコロ持ってる?」
「ああ、持ってるぞ。暇な期間にすごろくでもしようかなと」
「期間て」
「今から皆ですごろくするわよ」
「え、みんな!?」
「ちょ、ちょっと待ってよ。もう魔王の城目前だよ!? そんなことしてる暇は」
「だまらっしゃい! 今からこいつにすごろくの楽しさを叩きこむんじゃあ!」
「え……俺?」
「あ、すごろくするんですか? 私も入れてくださいなっ」
「五人は多い!」
「ひゃひ!」
サイコロ準備。
「サイコロだけで良いのか? すごろくボードもあるぞ? “ミドリちゃんの鉄人すごろく”っていう」
「そんなものは必要ない。必要なのは、スタートとゴールと、その間の六マスだけ」
「そ、そんなもの……」
「その六マスの中に進むとか戻るとか入れるんですか?」
「ミドリにすごろくの楽しさを叩き込むのに、無駄なマスもギミックも必要ないわぁ!」
「ご、ごめんなさい」
「どうしたのこの人」
「俺の鉄すごが否定された……」
準備完了。
「はい、じゃあブルース→テミ→私→ミドリの順番ね」
「こんなに大勢ですごろくして楽しいのか……?」
「あ、これって丁度じゃなくても上がれるんですか?」
「丁度じゃないと上がれないに決まってるだろうがぁ! お前の目は節穴かぁ!?」
「ごっ、ごめんなさい!」
「じゃあ振るよ。四だ」
「あ、じゃ、じゃあ私。えい。五です」
「はい。六ね」
「お前等良い目が出るな」
「いや、全然関係ないよこれ」
「よし、六出ろ六出ろとりゃあ! な……三だと」
「ミドリ大変これは大きく遅れを取ってしまったぁ!」
「や、やべー!」
「いや全然関係ないんですけど」
「お前は黙ってさいころ振ってれば良いんじゃあい!」
「えー」
「はい、二巡目よ。ブルース振った振った」
「はいはい……あ、三だ上がりだ」
「どっしゃああああい!!」
「ぎゃは!」
「ど、どうしたマゼンダ!」
「ま、魔王の攻撃を受けたぁ!」
「な、何!? 大丈夫か! どこだどこだ魔王!」
「大丈夫よ。それよりすごろくの続きをしましょう」
「そ、そうだな。サイコロは何だったんだ?」
「あ、そうね! えっと…………二ね、間違いなく」
「危ねぇ! もうちょっとで上がられる所だった! 危ねぇ……」
「危なかったわね!」
「……」
「接待すごろく……」
「さぁテミの番よ。わかってるでしょうね」
「は、はい……」
「二よ出るな! って、ついつい祈っちゃうなこれ」
「私もです……えいっ! 三です!」
「あー残念ね」
「またもや危ねぇ! あーひやひやしたぜ、危ねぇ」
「本当危なかったです……」
「はい次は私ね。ミドリの番の前に上がっちゃうぞー?」
「そ、それだけはやめろ! 一で上がりか! くぅー、一出るな、一出るな」
「出しちゃうぞ出しちゃうぞー?」
「くそーギアドライブめー!」
「何これ」
「さぁ」
「ミドリ! 振るぞ!」
「おお! 来い!」
「てやぁ!」
「うぉぉ!」
「…………六」
「セーフだぁ! よっしゃあぁ!」
「くっ! しかし、ミドリが上がれるとは限らないのよ」
「そっ、そうか……次に俺が四を出さないと、また危機三連発……それだけは避けたい!」
「ミドリが四を出さないと、もうミドリに勝ちのチャンスは無くなるわよ!」
「勝ちのチャンス……よし、よし、勝つ!」
「出してごらんなさい!」
「行くぞぉ! 出してやる! 四を出してやる! いっけぇぇぇ!」
「何このテンション……あ、一だ」
「どっしゃああああああい!!!」
「ぎゃはん!」
「な、な、何だ! どうした!」
「お、オーガーに攻撃を受けた!」
「何! オーガーどこだどこだ! 俺が倒してやる!」
「もう倒したから大丈夫よ」
「そ、そうなのか……。良かった」
「疑えよ」
「ところでサイコロは……?」
「そ、そうだ! サイコロ、なっ、なっ、なっ!」
「ふっ、負けたわ、ミドリ」
「四だぁぁぁ!」
「四ね!」
「……四ですね」
「でしょうね」
「四だぁぁ! 上がりだぁぁ! 俺の勝ちだぁぁ!」
「ミドリ」
「まっ、マゼンダ!」
「すごろく、楽しいでしょ」
「あ、ああっ……楽しいぃ!」
「うん、よし」
「やったやった!」「四だ上がりだ!」「くぅぅ! 勝った勝った!」「ルファ見ろ四だぞ四!」
「ふぅ、世話の焼ける子ね」
「そのやり切った顔やめてくれるかな」
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